stickman  repair

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今回は、本来の製作業務とは少し違いまして、珍しい仕組みのシステム手帳の復活作業のお手伝いです。

※ stovl製品ではありません。
  通常は他社製品の改造・修理は承っておりませんので参考程度に御覧ください。


お問い合わせ頂いた御客様。
12年以上愛用されていた手帳が壊れてしまい、同じ仕組みのシステム手帳を買おうにも既に生産終了。
諦めかけていたところ、GSつながりでお知りになったstovlに連絡されたとの事。

このような、
生産終了・ メーカー消滅・ 他で断られた・ 修理を前提に作られていないけど愛されている物などの相談や御依頼って、私サトーとても感じてしまいます。





まずは、stickmanについて説明。
とある手帳メーカーが生産していたスティック式のシステム手帳。
通常の手帳と同じ規格の紙を使用しますが、固定用のリングに金具を使わず、樹脂製スティックを対面するハトメ穴に互い違いに通す方式になっています。金具のように厚くならないので、とてもコンパクトで使い易いそうです。
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このスティック。硬くも軟らか過ぎる事もなく、絶妙の硬度としなやかさを持っています。

上の画像は修理前のものですが、周囲を縁取るように革が折り返っているのが解ると思います。
世にある多くの革製品は「へり返し」という製法で作られています。この製法の場合、折りかえしやすく薄く仕上げる為に、へり返し部分をコンマ数ミリまで薄く漉き込んでいます。
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なので、長く使用していると、ここから革が裂けたり磨り切れてしまうのです。
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写真ではわかり辛いですが、今回の個体も全周にわたって所々傷みが多い状況でした。
御依頼内容は、カードスペースを含むインナー部分を生かして、表面の革のみ交換する事。
使える部分はなるべく残すというのは、愛用品として考えれば当然の御希望ですし、賛同致します。

しかしながら、技法も違えば・修理を前提に考えられた物でない製品ですから、越えねばならない課題がいくつもあるのです。
分解する前に中の状況を推測しつつ修理法を検討します。バラしてから出来ないでは許されませんし、今回はじめて見るスティック式です。

実作業は集中して一気にやってしまったので、気がつくと内側の芯材やスティックのガイドとなっているプラ版の写真を撮るのを忘れてしまいました。 細かい事は省きますが、インナーを生かす補修の場合、直し易いとはいえない構造なのでした。

私の場合、「へり返し」ではなく、革の断面をいかした「コバ磨き仕上げ」を得意としています。
今回は、中の構造云々というより、耐久性と補修性に優れた「コバ重視」の製法として構成し直し、以前の大きさと変わらず・使い勝手も悪くならないように考慮しつつ作業を進めていきます。

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上の写真。完成後の内側インナー部と、外した表の革の様子。縁取るように足付けしダブルのステッチ箇所が新造部です。

一応解説。
完成予定時の外寸から逆算して、張り替える外側と内側を縫い合わせる為の足掛かりとなるように、インナー部に新造した革パーツを同色の糸で手縫い固定します。
その為に先ず、インナー部の古い縫い代を全周にわたってカットします。
カットする量・革の新造部・ステッチの間隔と固定強度とのバランス、これらが今回製作する上での肝でした。
内側の同色ステッチは、中に仕込まれているプラ板とも縫合しなければならない都合もあります。

新造部の革は、在庫の中から一番質感と色が近かったホースハイドを使用。

幾つもの関係性を考えながら、「コバ磨き仕上げ」として成立するように、且つインナーのカード入れ部にも不具合がなく、装着する紙にも負担が掛からないよう、地味ですが重要なポイントが沢山ありますね。
この辺もお財布の製作に近い部分と感じます。小さなスペースの中でのパズル的せめぎ合い。

多くの場合に言えると思うのだけど、幾つもの用件を満たそうとすると、自ずと数ミリの間で「ココだ!」といえるポイントが見えてくるものです。
逆に見えないときは、構造的に製品として成立しない物という事。
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そして、全張替えとなる表の革。今回はサドルレザーのブラウンを使用。
足付け部分が縫いあがったインナーパーツと、ブラウンサドルレザーを、御希望の白い麻糸で縫合。もちろんhand sewn。
最後にコバを調整し磨きあげ、各部を再確認し完成です。

上の画像、交換した革の厚さの違いがわかるでしょうか。
革は厚ければ良いというものではありません。表と内側との関係もありますし、使い易さにも寄与するところ。
ただ、薄すぎない程度の厚みは、「壊れしろ」というか磨耗や当たりに対する余裕という意味で、重要と考えます。
50ccバイクとスポーツカー。ともに時速60キロメートルで走った時の、安全性と余裕の差とでもいいましょうか。

折曲がる箇所の堅牢製は、革製品全般にいえる課題点。
どうしても、伸ばしたり縮んだり・接触や当たりが出やすい箇所です。
傷む事を完全に防ぐ事は出来ませんが、stovl的探求に沿った方法で仕上げていきます。
この辺りの事は、誰も完全なる答えを持っていない部分だと思います。 
逆に、壊れた時の買換え需要を期待してか、気がまわらないのか、何も対策をしない作り手も多いと感じます。 でも、其れはソレ。
この部分のstovlの考え、いずれ何処かでお話し出来ればと思っています。

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あがりは、何も無かったように、以前と変わらずシンプルに。
構造の都合で、元々中に仕込まれていたプラ板や芯材は外す事は出来ませんので、どうしてもウネリというかアタリがでてしまうところ。
その辺は、製品の記憶の一部として 御勘弁。


Λ.正直申しますと、最初からインナーパーツも含め全て製作し直したほうが、作り易く堅牢な物ができたと思います。
 しかしながら、物は事。 人それぞれ事情があるように、人と物との関係性。大切だと思います。
 愛着という形ではない印・記憶を留めたリペア、いつも勉強になります。
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御依頼のM様の日記から、画像を拝借。
気に入って頂けたようで、僕もうれしいです。

ありがとうございました。



※.今回は御縁のあるお客様からお困りとの御相談を頂き、私の学びの一環として承った案件です。
 通常、当工房では他社製品の改造や修理業務は受け付けておりません。
 やはり製法・技法が異なるメーカーの物を簡単に修理可能とはいえない事情もお察しくださればと思います。
 製作・販売したメーカーがアフターケアを受け付けない理不尽さはユーザーさんの立場から見れば辛いのは承知しておりますし、当方がお断りすることが多いのも申し訳なく感じている部分です。
 しかしながら、製作・開発業務に追われ他社様のお直しまで手がまわらない状況も御理解頂ければと思います。
 それでもどうしても、という場合のみ御相談ください。
 良いお返答が出来ないことも多いですが、状況が許す範囲で御相談に乗れるかもしれません。
 











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by stovlgs | 2012-04-12 17:40 | Comments(0)
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