表にブラックオイルコードバンを使い各部を変更したロングウォレット。 今回のお客様、通常版と違うカタチや容量の御希望があり、理想とする仕様の説明と共にスケッチを添付してお問い合わせくださいました。 遠方のお客様でしたので電話とメールで御意見を伺いながら複数回やりとりの上、お好みのカタチや仕様を検討し、御希望に沿いながらもstovl製としても成り立つよう製作させて頂きました。 今回は、オーダー製品への御理解のあるお客様でしたのでスムーズに進行する事ができましたが、 あまりにも多くの変更点がありますと、カタチだけでなく使用感としてのバランスまでも変わってしまうような事もございます。 お好みのデザインや容量だけを実現するのでしたら、その形やディテールを御希望どうりに作ることも可能です。 しかし完成度や堅牢性・美しさを基準に考えますと、実際には見えない部分の寸法やバランスの辻褄をパターン(型紙)上とサンプルで検証しなければ、最初の一つ目から本当の良い物は作れません。 今回の場合は、御依頼の内容からしますと殆どフルオーダーに近い物でしたが、 検証のなされている既存のロングウォレットを改修するほうが確実な部分もあり価格を抑えられる事から、セミオーダーというカタチで進行させて頂きました。 1.スクエア型(標準型よりシルエットを角型に) 2.コンビ素材使用(表コードバン 内側サドルレザーヌメ) 3.カードスペース増設 (既存のデザインよりもカッティングを直線的に) 4.ジッパーコインスペース 5.薄型仕上げ 目立った仕様変更は、この五点になります。 コンビカラーの課題に、色が移る「移染」という現象が起こることがあります。 とくに濡れてしまった時に起きやすく、こればかりは完全に防ぐ事ができません。防水材や色留め剤等でコートしますとナチュラルな質感を消してしまいますし、それらを使って移染を防げたとしても、そのコート剤を越えて濡れてしまった場合には、その溶剤が逆に邪魔をしてシミを消す対処法を施すのが難しくなります。 また、どんなに濡れたとしても全く移染しない事も多く、染料や革の特性と相性による部分なので、御了承頂けた場合のみ製作しています。 今回は同じコードバン黒とナチュラルヌメで移染しないかチェックしたところ、通常使用では問題無しと確認できましたので、諸々の了承を頂き製作しています。 そして今回のように、表と内側で色の違う革を使った場合には、どちらの色にも相性のよい糸の色選択が課題となります。そして、今回はナチュラルカラーのシニュー糸を使いました。 この糸は少し透明感がある為、シッカリと縫い引き締めますと、それぞれの革と色が馴染み同化したような風合いを見せてくれます。 外周のラインについては、カードスペースの角を標準の丸味のあるものから、少し角気味に仕上げています。 鋭い直角に仕上げることも可能ですが、少しだけ丸みを残した角型に。 こうしますとカードのスペース効率を高めつつ、財布の角により収納時の服や鞄を攻撃することありませんし、財布の角部自体が傷みやすくなるのも防止できます。 その代用の一つとしてstovl標準型の4箇所に対し二つの個別カードスペースを増やし6箇所としました。そして、この個別スペースには一箇所に2枚~3枚収容できますので、ここだけでもかなりの収納力があります。 そして、その下、場所で言うと表のコードバンとヌメ革の個別カードスペースの間にも大きなスペースが存在します。 ここはマチを使っていないので、財布自体が厚くなることもなく大きなスペースを確保しています。 これら増設分を全て合わせますと、かなりの収納力があります。 あわせれば20枚以上のカード類と諸々を収納できると思います。 ブルーのウォレットのところでも書きましたが、 やはり、緻密で美しいコードバンの裏面(床面)に、豪華さや演出のために裏地や革を貼り付けることは野暮だと感じています。 このベルベットのような美しい面に接着剤をベッタリは違うんじゃないかと思うんです。 良質部位の床面の美しさ、是非皆さんに感じていただきたい部分です。 そして、コインスペースはジッパー仕様に変更。 通常stovl版では、フラップ式のものだけを載せてまいりましたが、承ることも多い変更仕様。 OEM用としては、長年に渡り数多くを製作してきたジッパーコインスペースです。 ある時期数年間についていえば、ジップ仕様の手縫い製作品に関しては最も多くの量を作ってきた自負があるかも。。しかし、それゆえ堅牢性と補修性の部分で多くの課題もあり、検討・対策してきた部分でもあります。 ファスナーの取り付け方向に関しては、ユーザーさんの利き手や納めるポケットの位置など使用環境を伺い、最適な取り付け方向を決定しています。 ジッパー仕様の宿命で、どうしても長く使っていますと、動きが渋くなったり壊れてしまう事があります。 使い方に因るところもあるのですが、スライダーや歯が磨耗することもありますし、布で出来たテープ部分が切れてくる事も多く、そうならないよう各部に負担が掛かりづらい作り方やパターンの工夫を行っていますが、完全に避けることは難しいのが実態です。 見落とされがちなポイントですが、皆さんの財布を折りたたんだ時にファスナーの相対面にアタリやキズはありませんか?とくにスライダーが大きく堅い為、相対面の革やカード等に何らかの影響を与えている場合が多いです。 stovlでは、その辺も考慮してパターンを作製、縫製法や革厚の組み合わせを計算の上、各収納の配置も決定しています。 ファスナーを使う以上完璧は難しいのですが、なるべく対策をし、もし壊れても修理が出来るような構造で組み上げています。 このレザーを扱っていますと、その吟面の美しさに吸い込まれそうな気分になります。 実際に裁断している時には、コードバンの漆黒の表面と研ぎ込んだ刃先がお互いに写り込みあって、どこまでが革でどこからが断ち刃なのか解らなくなるほどにクラっとくるんです。 ただ輝いているのではなく、艶消し感もありながらシットリとした感じといいましょうか。不思議な魅力がある革なのです。 全体のバランスと各パーツごとの強度を鑑みながらパーツごとに厚みを変えたことで、容量を増やした割に薄型に仕上げられています。 元々stovlには、作るアイテム毎に配置するパーツの強度と使用感から割り出した最適と考える革の厚みの基準数値があります。 そこには安全マージンもとっていますから、良質部位を使用する事を前提にしてですが、マル秘の加工を施し強度と質感を犠牲にせず薄型化が可能になっています。 〇 ロングウォレット サイズ 約195×95×12~25mm (容量と厚み指定により変動) 素材・仕様変更のない標準型の価格 ¥32500+tax ※今回の個体は各部仕様変更があります。 コードバン素材使用や ディテール変更・カード増設に関しましては、別途御見積もり致します。 Λ.多くの場合、容量や機能・使い勝手を全て充たすように作りこんだ物は、大型化・複雑化し、曖昧な物となってしまう事が多いのです。 当たり前の事を書きますが、大手でも小規模工房においても、その製品のデザインと仕様の多くは、それぞれメーカーごとの想いが、構造やカタチとなっている事が殆どだと思います。 なので定番品や標準スタンダード品は、限られた制約の中でより良いカタチを表したものが多いのではないでしょうか。 しかし、其れらを踏まえたうえでのセミオーダー・フルオーダーに関しましては、 ユーザーさん個々の想いと作り手側の技術が重なりあって良い結果を生むことを多く経験してきましたし、 そこから広がる可能性に魅力も感じています。 御希望を伺い意見交換を重ねることにより、ユーザーさん・作り手お互いの立場では感じられなかった気付きのようなものが見えて参ります。 そこがオーダー製作において一番大切なポイント、勘所なんだと思います。 いろいろ書きましたが、良い物・気に入って頂ける物を作りたいのです。 .
by stovlGS
| 2013-11-16 21:45
| ロングウォレット
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